1992年/持田神社にて
並河萬里は、半世紀にわたり、世界40ヶ国を越える国々をカメラとともに歩き続けました。そこで見たものは、想像力や幻想をはるかに越えた強い感動でした。「後世にどう伝えるべきか」と、自問自答しながらファインダーをのぞき、祈りを込めてシャッターを切り続けました。
取材した地では、砂礫の大地に足を踏み入れた途端に、知識では及びもつかない文明の歴史と文化の偉大さに圧倒されました。空爆の爆音が激しい戦場では、人間の悲惨と悲苦を見ました。並河が残したフイルムには、戦争や災害、観光地化など、様々の破壊から生き残ってきた文化遺産が凛々しく残されています。フイルムからは、人類の英知と創造力のモニュメントに対し、人間の品位と尊厳の証であると力強く語りかけてくるかのようです。並河萬里は2006年5月、74歳で生涯を終えましたが、残された膨大なフイルムの使命は、永遠には終わらないのである。